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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)113号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の登録請求の範囲)、三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第二号証(本願明細書)及び第三号証(手続補正書)によれば、本願明細書には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる(別紙図面参照)。

本願考案は、電子発音装置に関するものであるが、従来市販されている風呂用警報装置は、いずれも風呂専用であるため、経済的でなく、一般の家庭では購入し難い(本願明細書第二頁第二行ないし第四行)。

本願考案は、右欠点を解決することを目的として、電子発音装置の発振回路に切換スイツチを設け、風呂用警報装置としても呼鈴としても使用できるようにするために(同第二頁第五行ないし第八行)、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの構成(甲第三号証別紙第二行ないし第一八行)を採用したものである。なお、S3及びS4は、切換スイツチSEを構成するオン-オン型スイツチ(オン―オフ―オン型スイツチを含む。)であり、外部スイツチESは、スイツチS3及びS4の各共通端子イ、イ間に挿入接続する。Sは多極スイツチ(例えば四極双投スナツプスイツチ、四極双投スナツプスライドスイツチ、多連ロータリースイツチ)で、前記のスイツチS1~S4を第1図及び第2図に示したように形成してある。したがつて、これらのスイツチS1~S4は、スイツチSを操作するとき同時に動作する(本願明細書第三頁第一九行ないし第四頁第九行)。

右構成の採用により、水面検出電極Wを使わないときには、切換スイツチSEで、外部スイツチESを電源スイツチS1に並列に接続し、電源スイツチS1をオフにしておく一方、水面検出電極Wを使うときは、外部スイツチESを水面検出電極Wに並列に接続することができ、したがつて、少ない電気使用量で、風呂用警報装置としても、呼鈴としても使用することができるとの作用効果を奏するものである(同第六頁第一行ないし第八行)。

以上のとおり認められ、これに反する証拠はない。

2 本件拒絶理由通知書記載の拒絶理由が請求の原因四記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

よつて、以下、右拒絶理由通知書記載の拒絶理由<1>及び拒絶理由<2>の適否を検討する。

3 拒絶理由<1>について

成立に争いない乙第二号証によれば、拒絶理由<1>において引用されている原告の審判請求理由補充書の第三頁第二行ないし第八行には、「昭和六一年七月二四日付け拒絶理由通知書には、バイアス回路に検出器と外部スイツチとを並列に接続した装置(以下「引用装置」という。)が示されているが、このような装置は、トランジスタの電気抵抗が余り高くないので、電池の電圧が短い日数で下がつてしまう」との趣旨の記載があることが認められる。そして、成立に争いない乙第一号証(拒絶理由通知書)によれば、右の引用装置は、昭和三七年実用新案登録出願公告第二五七一九号公報に記載されているものであると認められるが、前記の審判請求理由補充書の記載は、要するに、本願考案の電子発音装置と引用装置とは、バイアス回路に検出器と外部スイツチとを並列に接続している点において構成を同じくするが、引用装置は、トランジスタが常に電池に接続された状態になつているため、そこを流れる暗電流によつて電池の消耗が大きくなるものであるのに対して、本願考案の電子発音装置は、電源をオン、オフさせる電源スイツチS1を具備しているため、暗電流の発生がなく、引用装置に比較すると電池が長持ちするという趣旨であると理解することができる。

ところで、本願考案が奏する作用効果は、前記のとおり、本願明細書において、水面検出電極Wを使わないときには、切換スイツチSEで、外部スイツチESを電源スイツチS1に並列に接続して電源スイツチS1をオフにしておく一方、水面検出電極Wを使うときは、外部スイツチESを水面検出電極Wに並列に接続することができ、したがつて、少ない電気使用量で、風呂用警報装置としても、呼鈴としても使用することができるとの点にあると記載されている。すなわち、右記載によれば、「少ない電気使用量で、風呂用警報装置としても、呼鈴としても使用することができる」根拠は、「水面検出電極Wを使わないときには、切換スイツチSEで、外部スイツチESを電源スイツチS1に並列に接続して電源スイツチS1をオフにしておく一方、水面検出電極Wを使うときは、外部スイツチESを水面検出電極Wに並列に接続すること」にあると解することができるので、右のような根拠が技術的見地から妥当なものであるか否か検討する。

(一) まず、本願考案の装置を、風呂用警報装置として使用しないときについて考えると、この場合は、電源スイツチS1をオフにしておくので、引用装置にみられるような暗電流の発生がなく、本願考案の電子発音装置の電気使用量が、引用装置の電気使用量に比較して少なくなつていることは明らかである。なお、本願考案の電子発音装置は、外部スイツチESが電源スイツチに並列に接続されているので、外部スイツチESの操作によつて、それが風呂用警報装置に使用されていないときでも、呼鈴として動作させることができることも明らかである。

(二) 次に、本願考案の電子発音装置を風呂用警報装置として使用しているときについて考えると、この場合には、電源スイツチS1をオンにするのであるから、その電気使用量は、引用装置や通常の風呂用警報装置と実質的に同じになる。すなわち、本願考案の電子発音装置の電気使用量が引用装置や通常の風呂用警報装置のそれを超えるものでないことは明らかである。そして、本願考案の電子発音装置は、外部スイツチESが水面検出電極Wに並列に接続されるように切り換えることもできるので、外部スイツチESの操作によつて、それが風呂用警報装置として使用されているときにも、呼鈴として動作させることができることが明らかである。

以上を総合すると、本願考案の電子発音装置は、それが風呂用警報装置として使用されていないときは、引用装置より電気使用量が少なく、一方、それを風呂用警報装置として使用しているときは、引用装置や通常の風呂用警報装置の電気使用量を超えるものではないから、全体的に比較すれば、本願考案の電子発音装置は、その電気使用量がより少ないものになるように構成されていることになる。

以上のとおり、本願考案が、「少ない電気使用量で、風呂用警報装置としても、呼鈴としても使用することができる」との作用効果を奏する技術的根拠は、本願明細書の記載において明らかにされており、かつ、その内容は妥当なものということができる。そうすると、本願考案の奏する作用効果の技術的根拠が本願明細書の考案の詳細な説明に記載されていないとの判断に基づいて通知された拒絶理由<1>は誤つていることになり、したがつて、審決の、拒絶理由<1>で指摘した不備な点は解消していないとする判断も誤りであるといわざるを得ない。

4 拒絶理由<2>について

本願の実用新案登録請求の範囲をみると、「特徴とする」の文言の前と後には、それぞれ、次に述べる内容が記載されているものと認められる。

(一) 「特徴とする」の文言の前には、本願考案の電子発音装置を構成する構成要素(ブロツキング発振回路、検出器、補助スイツチ、外部スイツチ、電源スイツチ、切換スイツチ)、及びそれらの構成要素の接続関係、すなわちブロツキング発振回路のバイアス回路に検出器を挿入し、検出器に並列に補助スイツチを配置し、かつ、外部スイツチを補助スイツチに並列に接続するか電源スイツチに並列に接続するかを選択し得る切換スイツチを配設することが記載されているのであつて、これらの記載は、本願考案の電子発音装置の本質的な部分の構成を表しているものと考えられる。

(二) 「特徴とする」の文言の後には、本願考案の電子発音装置の各スイツチ(補助スイツチ、外部スイツチ、電源スイツチ、切替スイツチ)の接点がどのように切り換えられたときに発振音を出すのかが記載されている。すなわち、第一に、補助スイツチをオフ、電源スイツチをオン、切換スイツチにより外部スイツチを補助スイツチに並列に接続したときは、検出器のオン時及び外部スイツチのオン時に発振音を出すこと、第二に、補助スイツチをオン、電源スイツチをオフ、切換えスイツチにより外部スイツチを電源スイツチに並列に接続したときは、外部スイツチのオン時に発振音を出すことが、具体的に記載されているのであつて、これらの記載は、本願考案の電子発音装置が動作する場合における各スイツチの接続態様というべき事項に該当するものと考えられる。

ところで、実用新案登録請求の範囲に記載しなければならないとされている、考案の構成に欠くことができない事項とは、当該考案が、明細書の考案の詳細な説明に記載された目的を達成すると共に、そこに記載された作用効果を奏するために、必要とされる最少限の構成であるということができる。そして、本願考案は、前記のような目的及び作用効果を有するものであるが、右目的及び作用効果は、本願明細書の実用新案登録請求の範囲における「を特徴とする」の文言より前に記載されている構成、すなわち「ブロツキング発振回路のバイアス回路に検出器を挿入し、前記検出器に並列に補助スイツチを設け、外部スイツチを前記補助スイツチに並列に接続するかまたは電源スイツチに並列に接続するかを選択する切換スイツチを設けた」構成(以下「前半の構成」という。)によつて得られるものであるから、前半の構成は、正しく考案の構成に欠くことができない事項、換言すれば、本願考案が特徴とする構成に該当するものということができる。

一方、本願明細書の実用新案登録請求の範囲における「を特徴とする」の文言より後に記載されている構成、すなわち「前記補助スイツチをオフにすると同時に前記電源スイツチをオンにし且つ前記外部スイツチを前記切換スイツチによつて前記補助スイツチに並列に接続した場合には、前記検出器がオンになつたとき並びに前記外部スイツチがオンになつたときに発振音を出し、又、前記補助スイツチをオンにすると同時に前記電源スイツチをオフにし且つ前記外部スイツチを前記切換スイツチによつて前記電源スイツチに並列に接続した場合には、前記外部スイツチがオンになつたときに発振音を出すように成した」構成(以下「後半の構成」という。)をみると、そこには、前半の構成に示されている構成要素以外の構成要素は何ら含まれておらず、その記載は、結局のところ、前半の構成に示されている構成要素の動作の態様を述べているにすぎないものである。したがつて、後半の構成は、厳密にいうならば、本願考案が特徴とする構成とはいえないとしても、本願考案が特徴とする構成の動作を明確に限定しているものであつて、そのような記載を実用新案登録請求の範囲に記載することは、許容されることというべきである。

そうすると、本願の実用新案登録請求の範囲の記載に不備はないのであつて、右記載が、拒絶理由<2>に相当するものであるとすることはできない。

この点について、被告は、本願考案の電子発音装置の四つのスイツチが特定の連動関係になるように関連づけられるべきことも、本願考案の特徴とする構成に含まれる旨主張する。

しかしながら、本願明細書の記載を検討しても、本願考案が、電子発音装置における右四つのスイツチの切換操作を簡便にすること、あるいはスイツチの切換操作におけるミスをなくすことを、考案の目的ないし作用効果としているものと認めることはできない。のみならず、右四つのスイツチがそれぞれ独立に動作するものであつても、前記のような本願考案の目的を達成し作用効果を奏し得ることは明らかであつて、四つのスイツチが特定の連動関係になるように関連づけられるべきことが本願考案の特徴とする構成に含まれるということはできないから、被告の右主張は理由がない。

5 以上のとおり、審決は、本願考案が奏する作用効果の技術的根拠が、トランジスタ等に流れる暗電流による電源電池の消耗を抑えて電池の長寿命化を図る点にあると誤認した結果、本願明細書の考案の詳細な説明の記載には不備があると判断し、かつ、本願明細書の実用新案登録請求の範囲には、本願考案の構成の一部が記載されているのみで、全体的に回路素子とそれらの接続関係の表現も明瞭でないと誤認した結果、本願明細書は実用新案登録請求の範囲の記載にも不備があると判断して、本願明細書は実用新案法第五条第三項及び第四項に規定する要件を満たしていないとの誤つた結論を導きだしたことに帰着するから、違法であつて、取り消されるべきものである。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当として認容することとする。

〔編注1〕本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

ブロツキング発振回路のバイアス回路に検出器を挿入し、前記検出器に並列に補助スイツチを設け、外部スイツチを前記補助スイツチに並列に接続するかまたは電源スイツチに並列に接続するかを選択する切換スイツチを設けたことを特徴とする、前記補助スイツチをオフにすると同時に前記電源スイツチをオンにし且つ前記外部スイツチを前記切換スイツチによつて前記補助スイツチに並列に接続した場合には、前記検出器がオンになつたとき並びに前記外部スイツチがオンになつたときに発振音を出し、又、前記補助スイツチをオンにすると同時に前記電源スイツチをオフにし且つ前記外部スイツチを前記切換スイツチによつて前記電源スイツチに並列に接続した場合には、前記外部スイツチがオンになつたときに発振音を出すように成した電子発音装置(別紙図面参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面

<省略>

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